こんにちは。
トレーナーのこうた(@trainer_blog)です!
他のチームがどんなリカバリーを実施しているか、気になりませんか?笑
今回はスペイン1部サッカーチームの回復戦略をまとめた論文を見つけたのでシェアします!
≫≫https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32882156/
はじめに
現代のプロスポーツでは、試合やトレーニング後の疲労をいかに迅速かつ効果的に回復させるかが選手のパフォーマンスを左右する重要な鍵となっています。
特にサッカーのような連戦の多いスポーツでは、回復戦略の質が次の試合の勝敗や選手の怪我のリスクを大きく左右します。
しかし、現場でどのような方法が用いられているのか、そしてそれが科学的に裏付けされた方法であるかについては十分に明らかにされていません。
本記事では、スペインのトップリーグ「ラ・リーガ」に所属するプロサッカーチームを対象とした画期的な調査研究を基に、回復戦略の実態とその背景、さらには今後のスポーツ現場における課題と展望について詳しく解説します。
研究は全23チームを対象に行われ、選手やチームが実際に実践している回復法や、それに影響する経済的・ロジスティック要因について明らかにしました。
研究の背景
高強度での競技を継続するためには、適切な回復が欠かせません。
特にトップアスリートは、体力や技術の向上だけでなく、精神的な安定や適応力も重要とされています。
しかし、過密スケジュールやプレッシャーの中で、選手の体に蓄積される疲労を完全に取り除くのは容易ではありません。
これまでの研究では、アイスバス、マッサージ、睡眠、栄養補給など、様々な回復法が提唱されてきました。
しかし、それらがどの程度実践されているのか、またどのように選択されているのかについての包括的なデータは不足していました。
本研究は、この知識のギャップを埋め、現場での実践を科学的根拠と照らし合わせることを目的としています。
方法
対象となったのは、2018-2019シーズンにラ・リーガに所属した20チームと、2019-2020シーズンに昇格した3チームの計23チームです。
各チームの医療スタッフやフィットネスコーチにオンラインアンケート形式で調査を実施し、以下の6つの項目についてデータを収集しました。
- 使用されている回復戦略の種類
- 戦略の使用頻度とタイミング
- 選手への個別化の有無
- 回復戦略の計画性(周期や時期)
- 施設やロジスティクスの影響
- 経済的要因やリソース制約
結果
1. 全チームが回復戦略を実施
調査対象となったスペイン1部リーグの全23チームが、何らかの回復戦略を導入していることが確認されました。
特に試合後の回復においては、選手全員に戦略を適用しているチームが57%、チームの半数以上の選手に適用しているチームが43%と、高い実践率が示されました。
主に使用された戦略は以下の通りです。
- 自然的戦略:
- 睡眠・ナップ(100%のチームで採用)
睡眠は回復の最重要要素として全チームが実践。試合後やトレーニング後の短時間の「ナップ」も含め、選手の疲労軽減に効果的とされています。 - 食事/水分補給(100%のチームで採用)
栄養補給や水分補給は、選手の筋肉修復やエネルギー補充に必要不可欠であり、全チームで実施されています。
- 睡眠・ナップ(100%のチームで採用)
- 物理的戦略:
- 冷却法(100%のチームで採用)
アイスバスや冷水浴などの冷却法は、筋肉痛の軽減や疲労回復の効果が科学的に裏付けられており、すべてのチームで採用されています。 - マッサージ(100%のチームで採用)
トレーニング後や試合後のリラクゼーションと筋肉の緊張緩和を目的としたマッサージは、特に人気の高い戦略の一つです。 - フォームローリング(91%のチームで採用)
自主的に行える簡便な方法であることから、選手の間で高い支持を得ています。筋肉の柔軟性を高め、乳酸の除去を促進する効果が期待されています。
- 冷却法(100%のチームで採用)
- 心理的戦略:
- プログレッシブ筋弛緩法(61%のチームで採用)
選手の精神的なストレスを軽減し、リラックスを促す技術として一部のチームで使用されています。 - イメージトレーニングや祈り、音楽(22%のチームで採用)
使用率は低いものの、個別の選手が自主的に取り入れる場合がある戦略です。
- プログレッシブ筋弛緩法(61%のチームで採用)
- 代替医療戦略:
- 鍼治療やリフレクソロジー(22%のチームで採用)
補助的な回復法として使用されていますが、コストや科学的根拠の不十分さが普及を妨げている可能性があります。
- 鍼治療やリフレクソロジー(22%のチームで採用)
2. 使用頻度とタイミング
試合後の回復戦略のタイミングとして、87%のチームが試合終了後「2時間以内」に実施を開始していました。
これは、筋肉疲労の軽減や炎症の抑制が主な目的とされています。具体的な戦略の使用頻度は以下の通りです。
・22%のチームが「2回のセッション」で対応
・35%のチームは「選手の主観」に基づいて頻度を調整
また、91%のチームが複数の回復戦略を「特定の順序」に従って組み合わせて使用しており、冷却法とマッサージ、あるいはフォームローリングと栄養補給といった実践例が多く報告されました。
3. チームアプローチと個別化の状況
87%のチームが、医療スタッフや技術スタッフを含む複数の専門家による「チームアプローチ」で回復戦略を設計・監督していました。
一方で、13%のチームではフィットネスコーチや理学療法士など、単独の専門家が回復戦略の設計を担当していると回答しました。
また、52%のチームが選手の年齢、経験、睡眠の質、疲労感などの要因に基づき戦略を個別化している一方、48%は十分に個別化されていない可能性が示唆されています。この点はさらなる改善の余地があると言えます。
4. ロジスティックや経済的要因の影響
一部のチーム(13%)では、施設や予算の制約が回復戦略の選択や実施に影響を及ぼしていることが報告されました。
特に小規模なクラブでは、サウナや高額な機器を用いた冷却法など、コストのかかる物理的戦略を導入できない場合があります。
また、アウェイゲームでは十分な設備が利用できないケースが多く、試合後の回復戦略の実施が困難になるとされています。
追加の分析: 使用されなかった回復法
興味深い点として、以下の戦略はほとんどのチームで使用されていませんでした。
- サウナ(35%のチームのみが採用)
科学的エビデンスが不足していることや、高額な施設コストが要因と考えられます。 - ヒートパックの使用(9%のチームのみが採用)
冷却法と比較して利点が少ないとされ、使用率が低い結果となりました。
考察
自然的戦略が最も多く採用される理由
自然的戦略、特に睡眠と栄養補給は、コストがかからず即効性があるため、全チームで実践されていました。
特に睡眠は、試合後のパフォーマンス回復において最も重要な要素とされています。
一方で、ストレッチやアクティブ・クールダウンのような科学的根拠がやや不足している方法も依然として人気があり、選手の「慣れ」が影響している可能性が指摘されています。
物理的戦略の有効性と普及
冷却法(アイスバスや冷水浴)は、筋肉痛や疲労感の軽減に科学的な裏付けがあり、全チームで使用されていました。
また、フォームローリングはコストが低く、持ち運びが容易な点で特に支持を集めていました。
一方で、サウナの使用率は35%にとどまり、施設や時間の制約が影響していると考えられます。
心理的戦略と代替医療戦略の課題
心理的戦略(プログレッシブ筋弛緩法、イメージトレーニングなど)や鍼治療などの代替医療戦略は、わずか22%のチームでしか採用されていませんでした。
これらの戦略は、科学的証拠が限られていることや、選手やコーチの認識不足が要因として挙げられます。
科学と実践のギャップ
科学的エビデンスがある戦略がすべてのチームで採用されているわけではなく、伝統的な方法や選手の主観が依然として大きな影響力を持っています。
このギャップを埋めるためには、科学的知識を現場に浸透させる教育やトレーニングが必要です。
今後の課題と展望
1. 他国や異種スポーツでの研究
今回の調査はスペイン1部リーグに限定されているため、他国のプロリーグや他のスポーツでの類似調査が必要です。
特に選手の性別や文化的背景が回復戦略に与える影響を考慮した研究が期待されます。
2. 科学的教育の強化
選手やスタッフに対して、科学的根拠に基づいた戦略の重要性を教育し、効果的な戦略の普及を促進する必要があります。
これにより、選手が自発的に回復戦略を選択する力を育むことが可能です。
3. 複合的な戦略の開発
複数の回復戦略を組み合わせた場合の相乗効果について、さらなる研究が必要です。
例えば、冷却法と心理的戦略を組み合わせることで、身体的および精神的回復を同時に促進する可能性があります。
結論
本研究は、スペイン1部リーグのプロサッカーチームにおける回復戦略の実態を初めて明らかにした貴重なデータを提供しています。
自然的戦略が最も広く採用されている一方で、科学的知見と実践の間にギャップが存在していることが浮き彫りになりました。
このギャップを埋めるための教育や研究が進むことで、選手のパフォーマンス向上や怪我の予防にさらなる貢献が期待されます。
ということで本記事は以上となります!
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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