こんにちは。
トレーナーのこうた(@trainer_blog)です!
今回は、前回の記事でも少し触れた、大腿四頭筋腱を用いた前十字靭帯の再建術についてです。
近年着目されている大腿四頭筋腱を用いた再建術ですが、その成績はいかに…?
ということで2021年に発表されたこちらの論文を要約していきます!
「Graft Failure, Revision ACLR, and Reoperation Rates After ACLR With Quadriceps Tendon Versus Hamstring Tendon Autografts: A Registry Study With Review of 475 Patients」
ACL再建術における腱移植の最前線
前十字靱帯(ACL)損傷は、スポーツ医学と整形外科において最も多くの関心を集める膝関節の重度損傷のひとつです。
ACL再建術(ACLR)は、通常、自家腱移植を用いて損傷したACLを修復しますが、移植に最も一般的に使用される腱はハムストリング腱(HT)とされています。
しかし、近年、手術の侵襲性が低く、生体力学的に優れているとされる大腿四頭筋腱(QT)の使用が増えてきており、どちらの腱がより良い選択肢であるかを巡って多くの議論が行われています。
そこで本ブログでは、最新のレジストリデータを活用し、QTとHTを用いたACLRの成績とリスクを比較した注目の研究をご紹介します!!
1.強度と安定性:厚みもあり、強度が高く安定性も優れる
2.低侵襲性:採取部位の痛みや損傷が少なく、リハビリがスムーズ
3.筋力保持と早期回復:術後の筋力低下が少なく、回復が早い
4.適応の幅広さ:患者に合わせてサイズ調整がしやすく、さまざまな年齢層や運動レベルに対応可能
研究概要
本研究は、デンマークにおける「Knee Ligament Reconstruction Registry(DKRR)」のレジストリデータを基に、2015年から2018年の間にコペンハーゲン大学病院で行われた475人の患者データを分析したものです。
このデータには、QTを使用した223人とHTを使用した252人の患者が含まれており、移植片失敗率や再建術再施行率、再手術率といった主要アウトカムが解析されました。
興味深いことに、この研究は単一の高頻度施行施設で行われているため、QT導入に伴う学習曲線の影響が最小限に抑えられ、信頼性の高いデータが得られたことが大きな特徴となっているようです。
移植片失敗率
2年間の追跡調査で、
QTを使用した患者群の移植片失敗率は9.4%、HT群は11.1%と、統計的に有意な差はありませんでした。
これにより、QTとHTが移植片失敗に関して同等の成績を示すことが確認されました。
この結果は、これまでQTがHTに比べて移植片失敗率が高いと指摘してきた一部の研究に対する反証ともなり、QTがACLRにおいて現実的な選択肢であることを示唆しています。
再建術再施行率および再手術率
再建術再施行率は、
QT群が2.3%、HT群が1.6%とこちらも有意差はありませんでした。
さらに、再手術率もCyclops病変や半月板損傷の原因別に分析が行われ、Cyclops病変による再手術率はQT群で5.0%、HT群で2.4%、半月板損傷による再手術率はQT群で4.3%、HT群で7.1%となっています。
この結果は、QTがCyclops病変、HTが半月板損傷のリスクに対してわずかに高い傾向があることを示しており、腱の特性に基づくリスク差が考えられます。
臨床的示唆:どの腱を選ぶべきか?
本研究は、QTとHTの選択が患者の状況に応じて適切に決定されるべきであるという臨床的な示唆を提供しています。
例えば、QTは膝の拡張障害やCyclops病変のリスクがやや高いとされていますが、術後の膝関節安定性や筋力バランスの点で優れており、柔軟な回旋機能が必要とされるスポーツ選手にとってはメリットが多い可能性があります。
逆に、HTは半月板損傷のリスクが高くなるものの、術後の機能的なリハビリが確立しており、膝の伸展や回旋機能を必要としない一般的な生活活動に適していると考えられます。
これにより、患者ごとに異なるリスクファクターを考慮し、個別化した治療計画を策定することが可能になります。
QT使用によるCyclops病変のリスク
先ほども移植腱によってリスクが高くなるものがあることはお伝えしましたが、少しだけ掘り下げていこうと思います!!
Cyclops病変とは、膝の伸展を制限する病変で、QT移植後に若干のリスク増加が見られました。
これは、四頭筋腱が中央の腱板として採取されるため、収束した筋線維のほつれや緩みが発生しやすく、それが膝内部での病変につながる可能性があると考えられています。
これに対してHTは腱を折り畳む方法で、切断面がなく、筋線維が固定されているため、このような病変のリスクが低いと考えられます。
HT使用による半月板損傷のリスク
HTは膝の屈筋としてACLの代替役割を果たすため、膝の安定性向上に寄与しますが、再建術に伴いHTを採取することで、ハムストリング筋の一部を損失し、リハビリ中の膝安定性が一時的に低下します。
これが半月板に負荷をかけ、再手術リスクを高める可能性があるとされています。
リハビリの際には、屈筋力を強化することでリスクを軽減することが重要と考えられ、筋力バランスを考慮したリハビリテーション計画が必要です。
研究結果の信頼性:単一施設による学習効果の排除
本研究は単一の高頻度施行施設で行われ、QTの導入時に特に学習曲線の影響が排除されるよう監督体制が整えられていたため、非常に信頼性が高い点が特筆されます。
多くの多施設研究では、術者ごとの技術差が結果に影響する可能性がありますが、本研究はQTとHTの移植法を統一した環境で行われているため、QTの学習効果や技術的な偏りが最小限に抑えられているようです!
今後の展望:よりエビデンスに基づいた腱選択へ
QTとHTのいずれも、ACL再建術において実用的な選択肢であり、患者のニーズに応じて柔軟に選択することができることが確認されました。
本研究のようなエビデンスに基づいたデータが蓄積されることで、ACL再建術の治療ガイドラインがさらに精緻化され、より効果的な腱選択が可能になることが期待されます。
例えば、スポーツ選手にはQT、一般患者にはHTといったターゲット別のガイドラインが今後確立されることで、患者ごとの再手術リスクや術後の膝機能改善が最適化される可能性もあるかと思います。
今後、より多くの患者データと長期的な追跡調査によってさらに信頼性の高いエビデンスが提供されることで、QTおよびHTの適応に関する精緻なガイドラインが整備されることが期待されます。
ACL再建術の分野では新しい選択肢が常に探求されており、本研究のような実践的な研究は、日々の臨床での意思決定において極めて重要な知見を提供していると言えますね!
この論文では言及されていませんが、他の論文では、大腿四頭筋腱を用いた場合の「ドナー部位の合併率の低さ」というのが1つメリットとしてよく挙げられます。
例えば膝蓋腱であれば、膝前面痛や伸展筋力の低下。
ハムストリングス腱であれば、膝窩部痛や屈曲筋力の低下が挙げられるかと思います。
大腿四頭筋腱の場合、そのようなリスクが少ないというのはメリットの1つとしてあるかなと思います!
ということで今回のブログは以上となります!
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
大腿四頭筋腱を用いた再建術は、まだそれに特化したリハビリテーションが確立されていないというのが1つの問題点かもしれませんね。。
※病院ごとに確立されたものはあるかもしれませんが…
ハムストリングスを用いた時とは、また違ったアプローチになることは間違いないので。
私達JSPO-ATが何か医師に術式を進言することなどないとは思いますが、知識として知っておいた方がいい内容かなとは思います。
参考文献
1. Schmücker M, Haraszuk J, et al. Graft Failure, Revision ACLR, and Reoperation Rates After ACLR With Quadriceps Tendon Versus Hamstring Tendon Autografts: A Registry Study With Review of 475 Patients. *The American Journal of Sports Medicine*. 2021;