こんにちは。
トレーナーのこうた(@trainer_blog)です。
よくトレーナーが選手に
「怪我をしないために体を柔らかくした方がいい」
と言うことがあるかと思います。
しかし、「柔軟性がある=怪我を防げる」と本当に言い切れるでしょうか?
逆にそう言い切れない場合、選手にストレッチをやらせる必要はないのでしょうか?
今回の内容はあくまでも私1個人としての意見となります。
ぜひ皆さんのご意見もコメントまたはSNSでお送りいただけると嬉しいです!
・柔軟性と怪我の関係性について知りたい方
・選手への説明で困ったことがある方
柔軟性と怪我の関係性
では実際に柔軟性が高ければ高いほど怪我が少ないと証明する研究はあるのでしょうか?
いくつか研究をご紹介したいと思います。
研究❶
まずMasatoshi Amakoらの研究では、合計901名の軍の新兵を対象にストレッチと怪我の関係を調べました。
介入群ではトレーニングの前後に静的ストレッチを行いました。
その結果、総傷害発生率では、ストレッチを行った群と行わなかった群に有意差はありませんでした。
ただし、筋/腱の怪我と腰痛においてだけはストレッチ介入群で有意に低い結果となりました。
怪我の総数は減らないですが、筋腱の怪我や腰痛には効果的であったということです。
研究❷
次にArnasonらの研究では、サッカー選手を対象に柔軟性とハムストリングス肉離れの関係を調べました。
柔軟性プログラムを実施した群としなかった群を比較した際に、ハムストリングス肉離れ発生率に有意差はありませんでした。
他にもエキセントリック収縮のトレーニングを実施する群もありましたが、そちらでは発生率が有意に低かったと報告されています。
こちらは先ほどの研究とは違い、柔軟性を高めてもハムストリングスの肉離れを減らすことはできませんでした。
研究❸
次にW van Mechelenらの研究では、421名のランナーを対象に研究が行われました。
介入群では、W-upやC-down、ストレッチなどを行っています。
結果、介入群と非介入群で、1000時間あたりの傷害発生率が4.9と5.5で有意差はありませんでした。
こちらは具体的に筋腱系の怪我などは分かりませんが、ランニング障害が減ったとのこと。
研究➍
次にBixlerらの研究では、高校のフットボール選手を対象に研究が行われました。
3分間のストレッチとW-upを行なった群と行わなかった群を比較しています。
結果は、総傷害発生率に有意差は見られませんでした。
しかし、捻挫と肉離れにおいては、介入群で有意に低い結果となりました。
こちらは研究❶の結果と似ており、全体の怪我は減らないが、肉離れや捻挫においては効果的であったこと示しています。
ただし捻挫と柔軟性の関係性は他のいくつかの研究では否定的です。
研究❺
最後にLauersenらの研究です。
※システマティックレビュー&メタアナリシス
筋力トレーニング、ストレッチ、固有受容感覚トレーニング
上記の何を導入すると怪我が減るのかを調べています。
合計26610人の参加者を含む25件の試験を分析しています。
結果は、ストレッチを行っていても怪我は減らず、逆に筋力トレーニングを行った人達はスポーツ傷害が1/3未満に減ったとのこと。
まとめ
これらの研究をまとめると、柔軟性は総傷害発生率に影響は与えないが、筋腱の傷害には有効かもしれない。
ということが見えてきます。
ただ正直、柔軟性が高い/低いの定義が曖昧で、そのような括りでの論文は見つかりませんでした。
どうしてもストレッチ介入群、非介入群という分け方になってしまいます。
他にも、
足関節背屈制限、股関節内旋制限、肩関節の内旋/外旋制限
など、各関節の可動域制限がある特定の傷害のリスクファクターになることは多々あります。
ただこれらは筋肉の硬さだけが原因ではないので、一概に筋の柔軟性が高い方がいい!とは言えませんね..
柔軟性は低くていいのか?
ここまでお読みいただいた方は、じゃあストレッチする意味なくない?柔軟性って必要?と思った方もいるかもしれません。
しかし、こんな色々と言ってきましたが私は柔軟性は大事だと思っていますし、ストレッチ肯定派です。
それはなぜかというと、
❷選手のセルフケア意識向上に必要
だからです。
柔軟性は傷害予防に必要な要因の1つ
皆さんもなんとなくお分かりいただけるかと思いますが、怪我はある1つの要因だけで起こるものではありません。
様々な要因が複雑に絡み合い怪我が発生します。
例えば相手の動きや周りの環境的な要因であったり、心理的要因などなど。
その様々な要因のなかに”柔軟性”という因子は含まれていると思います。
実際に筋/腱系や成長期の怪我にはこの柔軟性が深く関わることが多いです。
ただ柔軟性がないから絶対に怪我が起こるという単純なものではないということ。
多くの発生因子の中の柔軟性だけが欠如しても、他の因子で補うことができ、結果怪我するまでには至らない。
というだけかもしれません。
その可動範囲をコントロールできるかどうか
さらには柔軟性があってもなくても、その可動域の範囲をコントロールできるかどうか。
はかなり重要だと思っています。
例えばY字バランスが180°開くとしましょう。
その時に手で補助をせずに180°開くという人はほぼいないと思います。
補助あり(他動)と補助なし(自動)の間にはギャップが必ず生まれます。
ようはその間は自分の意識下でコントロールできない範囲ということになりますよね。
その範囲が大きければ大きいほど、怪我が発生しやすいと考えられます。
選手のセルフケア意識向上に必要
「練習前、いつも以上に柔軟性が落ちていると感じる」
この感覚ってめちゃくちゃ重要だと思っています。
ストレッチを行い、
”どこかの筋肉が張っている。いつもより足が開かない。なんか重怠い。”
という情報は選手のセルフケア意識を向上させるためにもとても重要になります。
私が見ているチームでも、体が硬い人に柔らかくするような声掛けはあまり積極的に行いません。
しかし、練習前のストレッチでシーズン前に測定した可動域よりも低下していた場合は、練習までにその基準値に戻すよう指導します。
これは決まった測定項目があり、選手は練習前に必ずその項目を測り、基準値と比較するようにしています。
選手自身も自分の変化に気付くことができ、自分の身体と向き合うようになります。
まとめ
正直もっと言いたいことはあります…
多分、ここまでの文章だと説明不足で異論を唱える方もいるかもしれませんが…
ただ皆さんの周りにも体めちゃくちゃ硬いのに全く怪我しない選手がいるかと思います。
なので今回の内容も感覚的に理解しやすかったのではないでしょうか..
今回書いたことが全てではありませんが、少しでも理解していただけたら幸いです。