こんにちは。
トレーナーのこうた(@trainer_blog)です!
今回は皆さんが常に着目しているであろう、ハムストリングス肉離れのリスク因子についてです。
ハムストリング損傷(Hamstring Strain Injury: HSI)は、アスリートにとって競技パフォーマンスやキャリアに深刻な影響を及ぼす傷害のひとつです。
HSIの発生は加齢や過去の損傷歴、競技特性などの複合的な要因に左右されるため、リスク評価には最新データに基づいた多角的なアプローチが不可欠です。
2020年に発表された今回ご紹介する論文は、HSIリスクの要因を解明するため、初発および再発リスクに関する包括的な系統的レビューとメタアナリシスを行い、実務への応用に役立つ予防アプローチを提示しています。
「Recalibrating the Risk of Hamstring Strain Injury: A Systematic Review and Meta-analysis of Risk Factors for Index and Recurrent Hamstring Strain Injury in Sport」
研究の背景と目的
ハムストリングは、大腿部の裏側に位置し、ランニングやジャンプ、スプリントなど高強度な動作に重要な役割を果たします。
HSIは一度発生すると再発率が非常に高く、再発防止のためには初発時から予防・リハビリを一貫して管理する必要があります。
本研究は、過去のリスク因子を最新データで再検証し、スポーツ復帰後のアスリートが再発を防ぐための予防的要因を評価することを目的としています。
研究方法
本研究は、Medline、CINAHL、Embaseなどの主要データベースを用い、2011年から2018年に発表された78件の関連文献(対象者総数71,324名、HSI発生数8,319件)を系統的にレビューしました。
リスク要因のバイアスリスクはQUIPS(Quality in Prognosis Studies)ツールで評価し、以下の因子についてメタアナリシスを行いました。
2. HSI既往歴:再発リスクの増加因子としての役割
3. ACL(前十字靭帯)損傷歴:膝関節不安定性がもたらす影響
4. 腓腹筋損傷歴:下腿筋群の損傷とHSIリスクの関連
5. 筋力、柔軟性およびランニング負荷:動的筋力と柔軟性の評価、負荷管理の役割
また、臨床評価(触診、筋力テスト)とMRI診断の比較も行い、どの評価法が再発リスク予測に有効かを検証しました。
結果の詳細
1. 年齢およびHSI既往歴:再発リスクを高める主要因子
年齢が1歳上がるごとにHSIリスクが1.6倍に増加することが判明しました。
特に30歳以上のアスリートにおいてHSIリスクが高まる傾向が顕著であり、加齢による筋肉組織の柔軟性低下や筋疲労回復の遅延が影響していると考えられます。
スポーツ復帰時には年齢に応じた段階的なリハビリ計画が不可欠です。
HSI既往歴は再発リスクを顕著に増加させ、既往がある場合には再発リスクが2.7倍高くなり、特に同一シーズン内で再発率が5倍に達しました。
既往のHSIにより筋組織が脆弱化しているため、再発リスクが高まることが示唆されています。
再発予防には、リハビリ終了後も継続的な筋力強化と柔軟性維持が不可欠です。
2. ACLおよび腓腹筋損傷歴:関連性の高い下肢傷害
ACL損傷歴があるアスリートは、HSIリスクが1.7倍高いことが確認されました。
膝関節の不安定性がハムストリングに過剰な負担をかけ、HSIリスクを高める要因となるため、ACL損傷後の復帰時には膝およびハムストリングの強化トレーニングが求められます。
腓腹筋損傷もHSIリスクを1.5倍増加させるリスク因子として判明しました。
下肢筋群の連動がHSI発生に影響を及ぼしており、特にスプリント動作においてハムストリングと腓腹筋が連動して動くため、腓腹筋の損傷歴がある場合にはその回復と並行してハムストリングの強化が必要です。
3. 筋力と柔軟性:リスク管理に向けた具体的指標
静的な筋力・柔軟性テスト(膝伸展角度や静的な筋力測定)はHSIリスクの増加と強い関連を示しませんでしたが、ノルディックハムストリングエクササイズ(NHE)を用いた動的筋力評価が有効であることが示されました。
NHEでの筋力強化はハムストリングの再発予防に有効とされ、実施者のHSI発生率は低いことが明らかになっています。
4. ランニング負荷の影響とリカバリー管理
高速度のランニングや負荷の急増はHSIリスクを上昇させる要因として認識されています。
特に試合日程が詰まった状況下ではリカバリー期間が不足し、ハムストリングへの負担が大きくなります。
予防策としては、試合やトレーニング後のリカバリー時間を確保し、緩やかに負荷を増加させることでHSIリスクを軽減できます。
再発リスク評価:MRIと臨床評価の比較
MRI診断は損傷の詳細な部位を確認するのに有用ですが、再発リスク予測には限界があることが明らかになりました。
MRIで観察される筋繊維変性や炎症が再発リスクと強く関連しない一方で、臨床的評価が再発リスクの予測には有効であると示されています。
筋力低下や柔軟性の低下、触診時の痛みは、MRIよりも再発予防の指標として有効であり、特にアスリートの復帰判断には臨床評価が重要と結論付けられました。
実務的応用:リハビリテーションおよび予防のためのガイドライン
本研究結果に基づき、HSI予防やリハビリテーションを実施する際の指針を以下に示します。
1. 年齢や既往歴に応じたリハビリプログラムの策定
加齢やHSI既往歴によりリスクが増加するため、ノルディックハムストリングエクササイズ(NHE)を含む段階的な筋力強化プログラムが有効です。
再発予防には、柔軟性維持と筋力強化を意識した長期的なリハビリが推奨されます。
*NHEは時としてリスクになる可能性もあります。
2. ACLおよび腓腹筋損傷歴のある選手の強化プラン
ACL再建術後や腓腹筋損傷歴がある場合、膝およびハムストリングの安定性向上が必要です。
リハビリ時には体幹トレーニングを含めた連動性トレーニングを組み込み、全身のバランスを整えることが再発予防に効果的であると考えられます。
3. ランニング負荷の管理とリカバリー確保
試合日程が連続する場合でも、適切なリカバリー期間を設けることでHSIリスクを抑制できます。
特に、スプリントや試合前後に急激に負荷を増やさないよう、段階的な調整が重要です。
4. 再発予防にはMRIより臨床評価を重視
再発リスクの評価には、触診、柔軟性評価、筋力テストが優れた指標です。
特に競技復帰時には筋力維持と痛みの確認を徹底し、再発リスクを最小限に抑えるための臨床評価が欠かせません。
研究の限界と今後の展望
本研究ではHSIの定義や評価基準の統一が完全でないため、結果に若干のバイアスが含まれる可能性があります。
また、再発リスクと初発リスクを明確に区別する基準が難しく、今後はリスク要因の交互作用を調査することで、予防精度の向上が期待されます。
まとめ
本研究により、HSIの再発リスク因子として加齢、HSI既往歴、ACL損傷歴などが重要であることが確認されました。
特に臨床的評価は、MRIよりも再発予測において信頼性が高いことが明らかになり、競技復帰時において実用的な評価指標とされています。
HSIのリスク評価および予防においては、最新のエビデンスに基づく包括的アプローチが今後も求められます。
ということで、今回のブログはこれで以上となります!
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
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