こんにちは。最近目が痒くて辛いトレーナーのこうた(@trainer_blog)です。
皆さん部活動などで走った後に
「下を向くな!」
「膝に手をつくな!」
と言われたことはありませんか?
実は最近、Twitterでとあるツイートが話題になっています。
高強度運動での休憩姿勢は「手を頭上に置く」よりも「手を膝に置く」方が効果的であると示唆する研究結果。https://t.co/MS1X35E1gO
脊柱が屈曲して、肋骨が内旋した方が呼吸系の回復には有利🙆♂️
回復を優先する時は膝に手を置いちゃいましょう! pic.twitter.com/bgU84IhH1E
— Akito🥦ブロッコ侍 (@bloc_samurai) September 14, 2021
というもの。
私自身、選手からSNSで見たんですけど本当ですか?と聞かれました。笑
実は私もちょうど2年前に全く同じツイートをしています。
【意外な事実】
部活動で走った後に、
膝に手をつくな!
と言われたことありませんか?😊
頑張って胸を張って、上を向いて呼吸を整えていませんでしたか?
実は
膝に手をついた方が、回復が早いことが分かっているんです😲
— こうた | JSPO-AT (@trainer_blog) September 5, 2019
この時はフォロワーさんが少なかったのと、引用論文を載せていなかったからか、なんと「いいね1」でした。
何を言うかよりも誰が言うか。を改めて感じます。笑
という冗談はさておき、果たして膝に手をついた方が回復が早いというのはどういうことなのか。
そしてなぜそのような結果になったのかを解説していきます!
・有酸素運動の休憩時間にいち早く体力を回復させたい
膝に手をついた呼吸は回復が早い
まず今回話題になっている論文をご紹介します。
それがこちら。
タイトルは、
「高強度インターバルトレーニング中の2つの異なる回復姿勢による影響」
です。
こちらの論文がどのような論文なのかを軽く説明させてください。
目的
手を頭の上に置く姿勢(HH)
と
背骨を曲げて膝に手をつく姿勢(HK)
この2つの異なる姿勢がHIIT中の心呼吸機能にどのように影響するか明らかにすることを目的としています。
※HIITについては後ほど後述します。
姿勢の細かなルール
まずHHに関しては、
です。
HKに関しては、
と表記されています。
さらに胸部の屈曲具合を傾斜計で測定し、少なくとも10°は屈曲するようにモニタリングされています。
そしてこの研究の中では、このHK姿勢というのは、「ZOAを増加させる姿勢」とも表記されています。
このZOAを増加させるとはどういう意味なのか。については後述します!
▼HH姿勢▼
▼HK姿勢▼
https://journals.lww.com/acsm-tj/fulltext/2019/02150/effects_of_two_different_recovery_postures_during.1.aspx より引用
対象
18~22歳(20.3±1.1歳)で24名の女子サッカー選手を対象としています。
さらに
・現在のトレーニングルーティンを変更しない
・前日の睡眠時間は最低7時間はとる
などの細かな条件もあります。
方法
1週間間隔で合計2回のHIITを実施しています。
HIITの内容は、ランニングマシンで
を実施しています。
この3分間の休息の姿勢をHHとHKで試し、どちらが呼吸の回復が早かったかを見ています。
強度設定
このトレッドミルの強度ですが、まず、
220-年齢
で最大心拍数(HRmax)を算出します。
そして、0%の勾配でHRmaxの70%の速度で5分間ウォーミングアップを実施し、
HRmaxの90~95%の強度で4分間のランニングを行います。
正直かなりキツイと思います。。
検査項目
この3分間の休息中に何を見ているかというと、
❷V’CO2(二酸化炭素排出量)
❸VT(一回換気量)
の3つを分析しています。
それぞれ何のために分析するかというと、
❷V’CO2:二酸化炭素排出量が多い=それだけ酸素との入れ替えができていると判断できる
❸VT:この値が高いほど、一回でより多くの酸素が肺や気道に出入りしていると判断できる
を見るためだと思われます。
※筆者の理解としては。
要はどの値も高い方がリカバリー能力の優れた回復姿勢だ。と判断できるということです。
結果
では結果はどうなったのか。
https://journals.lww.com/acsm-tj/fulltext/2019/02150/effects_of_two_different_recovery_postures_during.1.aspx より引用
こちらの図をご覧ください。
HK姿勢をとったグループはHH姿勢のグループよりも3つの項目全てにおいて高い値がでました。
要は
ということです。
これは驚きですよね。。
だって私達は部活動やクラブ活動で疲れた時に
「膝に手をつくな!」
と言われ続けてきたわけですから。
じゃあなぜこのような結果になったのか。考察をまとめていきます。
なぜ膝に手をつくと回復が早いのか
ではなぜこのような結果になったのでしょうか。
この研究では考えられる原因が主に3つ記載されており、
❷対照群は逆に胸部伸展+肋骨外旋が起こり、ZOAが低下した
❸自律神経系への影響
の3つが考えられます。
最初の方にもでてきた「ZOA」とは一体何なのでしょうか?
詳しく説明していきます!
ZOAとは?
この記事で何度も出てきているZOAとは
Zone of Apposition(ゾーン・オブ・アポジション)
といい、
のことを指します。
横隔膜は肋骨や背骨に付着しているため、この肋骨や背骨の状態によってZOAは大きく変化します。
VISIBLE BODYを用い作画
こちらの画像を見ていただくとZOAがイメージしやすいかと思います。
私たちは横隔膜がしっかりと動くから肺に空気が入るのであって、肺が勝手に膨らむわけではありません。
なのでZOAが最適化されていることが乱れた呼吸を通常に戻す上では大切になるということです。
横隔膜の機能や呼吸時の肋骨の動きについては過去の投稿をぜひご覧ください。
【横隔膜】横隔膜の機能を徹底解説!横隔膜は呼吸だけじゃなく姿勢とも深い関わりがあった?
【肋骨の動き】呼吸時の肋骨の動きとは?本来の正しい動きを理解して呼吸改善に繋げよう
胸部屈曲+肋骨内旋だとZOAが最適化
今回の膝に手をつく姿勢というのは、
という動きを誘発させる姿勢になっています。
▼胸部屈曲+肋骨内旋▼
VISIBLE BODYを用い作画
こちらの図のように背中が丸まり、肋骨が締まる姿勢というのは、横隔膜のドームが大きくなりZOAが最適化されます。
膝に手をつく姿勢というのは、ZOAという観点からすると、とても理にかなった姿勢ということになります。
胸部伸展+肋骨外旋だとZOAが減少
対照群は、頭の上に手を置き
が誘発される姿勢となっています。
▼胸部伸展+肋骨外旋▼
VISIBLE BODYを用い作画
膝に手をつく姿勢とは逆に胸が反り、肋骨が開くような姿勢はZOAが減少し、呼吸に適さない姿勢となります。
これらの理由から、今回の研究では
膝に手をついた姿勢の方が呼吸の回復が早い
という結果になったのだと考えられています。
実際のスポーツでの応用
では実際のスポーツ現場で積極的に「膝に手をつく姿勢」をとらせた方がいいのか?というと疑問が残ります。
ここからは今回の研究には一切記載のない、完全に個人の主観的な話になります。
私自身は積極的に膝に手をつかせるかどうかには疑問を呈していて、
だとは思いません。
なぜならスポーツ現場では回復の早さだけが求められているわけではないので。。
具体的にどのような理由で疑問を呈しているかというと、
❷相手がいるスポーツでは、相手の目に疲れているように見えてしまう
❸チームスポーツではコミュニケーションが必須
と言う理由からです。
1つずつ具体的に説明していきます。
疑問❶
今回の研究では
あえてZOAが低下する姿勢(手を頭の上に)とZOAが最適になる姿勢(手を膝の上に)
を比較しています。
要は
ともとれますし、
ともとれます。
そもそも私は疲れた時に頭の上に手を置いたことはありません。笑
両極端の2つを比べたので有意差がでましたが、普通に手を腰に当てる呼吸と比較したらそんな差はないかも?しれませんよね。
疑問❷
私達がなぜ「膝に手をつくな!」と口酸っぱく言われてきたかというと、
「おい!相手疲れてるぞ!」
と相手にばれてしまうからだと思います。笑
もちろん、
「上を向いて胸を反らして肺を広げて酸素をたくさんいれるんだ!」
と言われてきた人もいるかもしれません。
ただ後者は今回の研究で完全に否定されたので、問題はやはり前者。
相手に弱みを見せるということは、相手が勢いにのってしまう可能性もあるということです。
これはチームスポーツをやっている方々なら共感頂けるかと思いますが、どんなに疲れていても疲れている姿勢を見せないのが大事なのです。
これってただの根性論ではなくて、普通に心理学の問題です。
「心技体」という言葉があるように、相手の「心」に良い影響を与えてしまいかねないのです。
疑問❸
どちらの回復が早い?
と言われれば膝の上でに手をつく姿勢かもしれません。
ただ、実際のスポーツでは選手同士で話したり、コーチと話したりする場面がでてきます。
膝の上に手をついて下を向いた姿勢のままコミュニケーションが取れるでしょうか?
この3つをクリアできるのであれば、膝の上に手をつく姿勢には賛成です。
場面においては、この呼吸法が活躍するかもしれません。
結論:呼吸が早い=スポーツ現場での最適解ではない
今回の記事でお伝えしたいことは2つで
❷個人で走ったりする人は積極的に膝の上に手をつきましょう
です。
私は膝の上に手をつく姿勢を否定しているわけではありません!
この姿勢は間違いなく呼吸の回復を早めます。
なのでどんどん積極的に取り入れればいいと思う反面、スポーツ現場ではその限りではないよ。というアンチテーゼになればとも思っています。
もちろん、最後の方は私個人の意見なので、それが正解ではないかもしれません。
ぜひ皆さんで今回の研究結果をうまく活用していただければいいなと思います!